棚の隙間

自分の好きなものを綴っていきたいと思います。

今月のおすすめ 7月号 『大人の友情』河合隼雄著

 こんばんは、いよいよ本格的な暑さが始まる頃ですね。コロナウィルスが収まらず、気持ちがざわざわしてしまうこの頃です。手洗い、うがい、距離を取る、マスクをするくらいしか、今のところ出来ることがないので、自分で出来る対策をしていきたいと思います。

 さて、今日ご紹介する本は河合隼雄『大人の友情』です。以下、出版社のサイトになります。

publications.asahi.com

 

 著者は臨床心理学者です。心理学をもとにして、物事を見ている本を多く出版されています。じゃあ、この本も心理学をもとにして書かれた難しい本なのかなと思う方もいるかもしれませんが、そういう事はありませんでした。著者がカウンセリングをした方の話とか、アメリカに留学していた時の体験談など、身近な話題に触れながら、友情について語っています。エッセイのようで読みやすく、頷けることが多かったです。

 自分に近い話題もあれば、ちょっと遠いけれど理解が深まったりすることが出来ると個人的には感じました。私が一番興味を持ったのは、「裏切り」について書かれた章です。この章では、夏目漱石の「こころ」が話題にされています。Kと先生が一人の女性を巡って、悲惨な結末を迎えてしまうことはご存知の方は多いと思います。著者は、Kと先生が同一視の関係だったから、この結末を迎えてしまったと書かれていました。確かに、全く同じ人間にはなれないはずなのに、親しさから同じような人間であると錯覚してしまうことがあると思います。著者は、この「裏切り」を回避するためにこんなことを言っています。

(中略) 友情が強くなると、同一視や理想化が強まる。「あんな素晴らしい人と同じようになりたい」だけでは危険である。人間は決して完全ではない。友人の欠点に驚くこともある。「裏切られた」と言いたいときもある。そんなときに、自分を人間としてよく見ると、まずまず似たような者であるし、そうでありながら、お互いに異なるよさをもっていることもわかる。常に裏切りの可能性をもつ関係も認めた上で、「やっぱり、ええやつやな」と感じるのが深い友情ではなかろうか。友情の強さよりも深さの方に注目することで、裏切りの悲劇は回避されるだろう。

 私自身、裏切りを感じたことはないですが、確かに裏切られたと感じることは心のどこかで、著者が言っているようなことを思っているのかもしれません。そう考えると、常に自分を人間として、客観的にみるのは大事なのかなと思います。他の章もこんな見方があるのか、と頷けるような本ですので、大人に限らず、中高生も読んでもらいたいなと思います。

 長文失礼しました、今日はこの辺で失礼します。次回は、8月号です。