棚の隙間

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今月のおすすめ本 2023.7月号『沈黙の勇者たち ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い』岡典子著 新潮選書

あらすじより

ナチスが1943年6月に「ユダヤ人一掃」を宣言した時点で、ドイツ国内に取り残されたユダヤ人はおよそ1万人。収容所送りを逃れて潜伏した彼らのうち、約半数の5000人が生きて終戦を迎えられたのはなぜか。反ナチ抵抗組織だけでなく、娼婦や農場主といった無名のドイツ市民による救援活動の驚くべき実態を描き出す。

公式サイト

www.shinchosha.co.jp

 

 抵抗した人を思い浮かべると、反ナチ組織化と思うがここでは反ナチ組織以外でも、ユダヤ人の救援を行った人の記録を辿っている。何故、危険を冒してまでもユダヤ人救護を行ったのか。知り合いにユダヤ人がいたが、助けられなかったことの後悔から。ユダヤ人と働いたことがあったから。善意からのものもあれば、お金を支払って宿を貸す人、労働力を補うためになどのギブアンドテイク的な動機から。単純に、気の毒だと思ったといった、様々な動機があった。市民だけではなく、ナチスのやり方をよく思わない警官もいた為、尋問や空襲後の身分証明書を発行する際に詳しく尋ねない人もいたようである。

 潜伏というと、アンネの日記のように誰かの家に文字通り潜伏して、音をたてないように生活することをイメージしたが、それ以外にも身分証を偽装してドイツ人として働く人もいたようである。しかも、身分証はドイツ人が提供したという。もし、自分が捕まれば偽装した身分証を持っているユダヤ人にも危険が及ぶし、ユダヤ人が捕まれば身分証を提供した自分たちにも危険が及ぶ潜伏同様、危険な救護方法であったようである。

 人を助けるとは、勇気がいることなのだろうか。最近、よく考える。誰か困っている人がいても、見て見ぬ振りをしていないだろうか。社会全体が困っている人に対して、冷たい眼差しをしているような世界だと思う。そんな社会に生きている私たちも、そろそろ息苦しくなってきてはないだろうかと思う。この本に出てくる人たちは、当然のことをしたと思っているだけかもしれない。確かに、差別や全体主義に対して抵抗することは当然であると思う。だが、誰にでもそれは出来ることではなくて、もしも私が同じ立場ならば、できるかどうか不安である。仮に、出来なくても全体主義に、差別に流されないように生きるには、どうしたらいいのかと考える。この本に出てくる人は、自分のできる範囲で、できることをやっている。自分に何ができるのか、どこまでできるのか考えて行動する。それは、とても面倒なことに思えるかもしれない。でも、私はやらなくては後悔しそうだと思った。見て見ぬ振りをして、誰かを傷付けてしまった後悔はずっと続く。私は利己的だが、そんな後悔を背負って生きていたくない。今ある差別や、全体主義にどう自分が行動できるのか考える一冊になった。